今日も、見えないところで

夕方、夫が玄関のドアを開けて帰ってくる。
ズボンの裾に、ほんの少しだけ木の香りをまとった名残がついていた。

それは、どこか懐かしく、あたたかい香り。
掃除をしても、洗濯をしても、
家のどこかにふわりと残る、今日という日のしるし


「おかえり」と声をかけながら、
私はその小さな跡に、目をとめる。

語らずとも伝わってくるもの。
音のない場所に宿るもの。
今日も二人頑張ったよね。


湯気の立つ味噌汁を並べ、
タオルを干し、靴を揃える。
そんなささやかな日常のなかに、
見守るような優しさが、確かに息づいている。

特別なことじゃないよね。


私たちは、言葉にならないものに触れながら
今日も一日を過ごしている。

たとえ誰にも気づかれなくても、
静かに支えてくれているものたちがある――
それはきっと、
とても身近な場所なんだろうと、そっと思う。

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