嫁に出した建具が、また声をかけてくれる

建具の仕事は、「納めに行けば終わり」ではない。

障子が破けちゃった、
長く使っていたら、戸の締まりが悪くなった——
そんな声がかかれば、またその家を訪ねる。

直してほしいと頼まれるのは、かつて自分の手で作った建具。
嫁に出した建具が、また呼んでくれるのだ。

「大事に使ってくださっているのが、建具から伝わってくる」
お義父さんは、そんなふうに言う。

何十年も前の建具を、今も暮らしの中で使ってくれている。
暮らしの中に、その建具を置いてくれている。
その気持ちが、建具を通して返ってくるような気がするのだと。

呼んでくれて、ありがとう。
大事にしてくれて、ありがとう。
そう言っているのは、建具の方かもしれない。

職人の手から生まれたものが、今もどこかの暮らしの中で生きている。
それを想うと、じんわりと、胸があたたかくなる。

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