夫が建具を納めに行く日、
私はそっと「今日も気をつけてね」と声をかけます。
家で仕上げた建具も、
現場に持っていくと、ぴたりとはまらないことがあるそうです。
ほんの少しだけ削って、整えていきます。
まるで、建物の呼吸にそっと合わせるように。
それは、「ものづくり」よりもむしろ、
「暮らしに寄り添う」仕事のようにも感じます。
今回納めたのは、部屋のドア。
角をぶつけないように、
キズひとつつけないように、
運ぶときには毛布でしっかり包み込みます。
現場では、古くなったカーペットや毛布を敷いて、
床を守りながら、部屋を汚さぬよう作業が始まります。
作業台のかわりになるそれらは、
いつも車に積まれている“静かな相棒”です。
微調整で削った木からこぼれ落ちる、
ふわふわのおがくず。その場では掃除機で吸われてゴミの扱いになってしまうけれど
その小さな粒を見ていると、
私はふと思うのです。このクズも絶品だって。
暮らしの中にそっと寄り添うものって、
実は目立たなくて、静か。
それでもほっとあたたかいものなのかもしれない、と。
今日も帰ってきた作業着のすそに
そっとついていたおがくず。
それを見つけて、私はほっとする。
「無事に終わったんだね」って。
——
暮らしのすぐそばに、
おがくずに包まれた、やさしいものづくりがある。
それを、私は少し誇らしく思っています。
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