「仏前に祀られた、まんまるスイカ」

「仏前に祀られた、まんまるスイカ」

玄関先で受け取った、ずっしりと重たいスイカ。
義父の友人が丹精こめて育てた一玉です。

それはまっすぐに仏間へと運ばれ、義母の仏壇の前に祀られました。
きっと、あの人にも見せたかったのでしょう。
「ほら、お前の好きだったスイカだぞ」
そんな声が、心の中で聞こえたような気がしました。

義父は、スイカに目を細めながらこう言いました。
「お前、うまくしろよ」

“うまくしろ”――
言葉はぶっきらぼうだけど、それは私への信頼の証でもあり、
義母への気持ちを託されたようにも思えました。

冷蔵庫では入りきらないので、涼しいところでしばらく寝かせてあります。
真ん丸で、濃い緑が艶やかで、まるで磨かれた石のよう。
見るたびに、「まだ切るには早いかな」なんて、もったいなくて少し迷います。

けれど、仏前から下げたあとには、ちゃんと包丁を入れて、
冷やして、切って、美味しくいただこうと思います。
義母にも「美味しいよ」って声をかけながら。

季節の果物がつないでくれる、ひとつのご縁と記憶。
この夏の一玉は、味だけじゃなく、心にも沁みるスイカです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました